前回の復習
前回、特許明細書について注意すべき点を3つ挙げましたね。
覚えてますでしょうか?
復習はこちらからどうぞ。
3つの注意点の中で、前回は「整合性がない」に関する一例を挙げましたね。
ある部分と別の部分とで整合性が取れてない技術文書は、
素人が読んでも違和感を感じることでしょう。
わかりやすい例で説明すると、機械や電子機器の説明書で、
あるページで説明している内容と、別のページで説明している内容が矛盾している場合ですね。
整合性がないと説明とは言えませんし、とても理解できないものになってしまいます。
今回説明する注意点とは
では、今回は「統一性がない」という点について説明していきます。
かれこれ同じ特許明細書を用いて説明することに飽きてきているかもしれませんが、
この明細書は説明にはもってこいの内容です。
それでは見ていきましょう。
今回は「特許請求の範囲」の請求項1を例に挙げます。
以下、その引用です。
【請求項1】
機器に対する衝撃を検知する装置であって、
プリント基板と、
前記プリント基板上に半田ボールを介して取り付けられる部品と、
を備え、
前記半田ボールによる前記プリント基板と前記部品との間の導通状態が切断されることを利用して、前記機器に対する衝撃を検知し、
前記プリント基板上に基板上回路が形成され、前記プリント基板上に第1~第N(N: 自然数、N≧3)の半田ボールを介して前記部品が取り付けられており、
前記部品は、
前記第1~第Nの半田ボールとそれぞれ接合される第1~第Nの接続端子と、
部品内連結回路と、
を含み、
前記基板上回路は、
前記第1の半田ボールと接合されるとともに、第1測定端子を有する第1基板上回路と、
前記第Nの半田ボールと接合されるとともに、第2測定端子を有する第2基板上回路と、
基板上連結回路と、
を含み、
前記第1~第Nの半田ボールが、前記部品内連結回路と前記基板上連結回路によって連結されることにより、前記第1測定端子と前記第2測定端子との間が導通しており、
前記第1~第Nの半田ボールが、前記部品内連結回路と前記基板上連結回路によって連結されることにより、前記第1測定端子と前記第2測定端子との間に各半田ボールを接続する複数の回路が直列接続されており、
前記複数の回路を構成する各回路は、導線のみからなる回路、または、導線および抵抗
器のみからなる回路である、
衝撃検知装置。
どうですか?どこに統一性がないかわかりますか?
わかった人はすばらしいです。
わからなかった人はこれから学んで行けばいいだけです。
統一性がないとは
まず、「統一性がない」というのはどういうことでしょうか。
それは、単語や表現がまばらになっている、ということです。
それでは上記請求項1のどの部分に、統一性がないと感じるのでしょうか。
請求項1では、太字の部分で、
「第1~第Nの接続端子」「第1測定端子」「第1基板上回路」という表現を使っていますね。
私はここで違和感を感じます。なぜ前者には「第1〜第Nの〜〜」と、
「の」が入っているのに、その他には「の」がないのか。
おそらく「第1~第Nの接続端子」を「第1~第N接続端子」とすると、
わかりにくいと思ったからだと思うのですが、もしそうだとすると、他の2つについても、
「第1の測定端子」「第1の基板上回路」とした方が、文章の流れがよくなります。
つまり、序数を使っている表現について、統一性がない、ということです。
特許明細書では序数を用いる表現として、
「第○のNchトランジスタ」などということがよく使われます。
このとき「第○の〜〜」と、「の」を入れるかどうかは重要ではありませんが、
表現を文章全体で統一させるべきです。
なぜなら、統一させない方がよいという理由がないからです。
ある部分では「の」を使い、他の部分では「の」を使わない、
というのでは「なぜここには「の」があるのに、他にはないのか?」と、
読み手に疑問・違和感を持たせる可能性が十分にあり、私は違和感を覚えます。
まして、プロの仕事なら統一性があってしかるべきだと思いませんか?
プロなら読み手(第3者)の読みやすさを十分に意識すべきですね。
別の部分にも統一性がない
この請求項1には他にも統一性がない、と感じさせる部分があります。
このことを説明する前に、特許明細書(特許請求の範囲)には、
特殊な名前(構成要素)が登場することを、お話しておかなければなりませんね。
構成要素とは、上記請求項1で例をあげると、
「プリント基板」や「部品」と言ったもので、「発明特定事項」と言われるそうです。
通常、意味合いを明確にするために、プリント基板などの一般用語以外の構成要素には、
それを特定できる名前をつけます。
しかし、請求項1では単に「部品」や「回路」と記載している箇所があります。
なぜ、「○○部品」と記載せずに、単に「部品」と書いてるのでしょうか?
また、なぜ「複数の回路」とだけ記載している箇所があるのに、
別の箇所では「基板上回路」としているのでしょうか?
「複数の回路」に「基板上回路」は含まれるのか?
など、様々な疑問が湧いてきます。
単に「部品」や「回路」という単語を用いただけでは、
正直何の「部品」や「回路」かがわかりにくいですよね。
それをちょっとでも明確にするために、
「基板上回路」のように「○○回路」などとしているのが通常だと思います。
にもかかわらず、単に「回路」としている箇所があることに、私はやはり違和感を覚えます。
これも、構成要素の名前の付け方に、「統一性がない」と言えます。
なぜ、重要な「特許請求の範囲」で単に「部品」という記載にしているのか。
単に「部品」とするくらいなら「A(アルファベットのエー)」でも良さげです。
例えば、単に「部品」と表現した場合、その素材はなんだ?プラスチックか?
鉄か?土か?など、考えが浮かんできます。
つまり、「部品」と書いてはいるものの、もはやなんでもよい、ということになりかねず、
「前記プリント基板上に半田ボールを介して取り付けられる部品と、」
VS.
「前記プリント基板上に半田ボールを介して取り付けられるAと、」
どっちも同じになってしまいがちだということです。
他の構成要素にはある程度名前をつけているのに、
「部品」という名前はあまりに杜撰すぎると思いませんか?
せめて「基板上部品」くらいにしてもバチは当たらないと思いませんか?
ましてプロならいいネーミングあるだろ、とまで思ってしまいませんか?
これが統一性がない、ということのもう一つの例なのです。
知財担当者が特許明細書を注意してチェックしないといけない理由は、
特許事務所は過去の明細書を流用することが多いため、
過去のイケテナイない表現がそのまま今回も適用されかねないからです。
知財担当者は十分に気をつけましょう。