文と文のつながりを意識する

文と文のつながりが読み手に与える印象はとても重要です。
前の文と後の文が関係があるのかないのか、
そのわかりやすさによって、読み手にとっての読みやすさを左右する要因となるからです。
繋がりのよくない文章は避けるべきです。

今回の説明は超大作です(笑)。
気合い入れて読まないとついてこれないでしょう!
それでは見ていきましょうか。

またまた教材は同じ特許明細書[特開2013-108996]

こちらで紹介した特許明細書を用いて説明します。
それでは早速、背景技術の段落【0004】【0006】【0007】を見てみましょう。
段落【0005】は文章ではないので省略します。
これらの段落を引用してます。
ちなみに全文はこちら

【0004】
電子機器は、精密な部品で構成されているため、落下によって、電装部品、基板等が破
壊、変形する場合があり、電子機器の故障の原因となる。
【0006】
電子機器に初期不良がある場合には、ユーザは、無償でメーカによるサポートを受ける
ことができるであろう。これに対して、ユーザが誤って電子機器を落下させ、電子機器を
故障させた場合には、修理費用は、ユーザが負担する必要がある。
【0007】
しかし、修理依頼を受けたメーカ側で、故障の原因が初期不良によるものなのか、ユー
ザが電子機器を落下させたことが原因であるかを判別することが難しい。実際には、ユー
ザが電子機器を落下させたにもかかわらず、初期不良だと偽って報告を受けても、原因を
特定することは困難である。

まず【0004】と【0006】の繋がりに注目

この2つの段落(文と文)の繋がりが変だなと思う人はどれだけいますか。
この2つの段落の間には接続詞はないものの、内容には関連があります。
接続詞は絶対に必要だということはないですが、
この2つの段落の内容についての関連性が曖昧です。
結果として、読み手には、話が繋がってるのかどうかがわかりにくくなってます。

段落【0004】は1文で構成されていて、
その内容を要約すると「電子機器を落とすことは故障の原因である」ということになるかと思います。
また、段落【0006】は2文で構成されていて、
電子機器の故障がユーザによるものかどうかについての記載だと推測されます。
段落【0006】の1文目は「初期不良による場合」で、2文目が「ユーザによる場合」っぽいです。

では、なぜ【0004】と【0006】の内容は関連性が曖昧なのでしょうか。

内容の関連性に着目

それは【0006】の内容が【0004】の内容を展開しているものであるにもかかわらず、
【0006】の表現でそれを活かしきれてないからです。
つまり、【0004】で「電子機器の故障原因」を挙げているのに、
【0006】の1文目では、話の論点が「故障原因」ではなく、
「初期不良」に置き換えられているからです。

プロが書いたままの【0004】の内容を使う場合、私なら【0006】を以下のように書きます。
プロが書いた部分に取り消し線をつけて、私が変更した箇所を太文字にしてます。
----------ここから----------
【0006】
電子機器に初期不良がの故障の原因が初期不良である場合には、ユーザは、無償でメーカによるサポートを受けることができるであろう。
これに対して、ユーザが誤って電子機器を落下させ、電子機器を故障させた電子機器の故障の原因がユーザによるものである場合には、修理費用は、ユーザが負担する必要がある。
----------ここまで----------
どうですか?
どちらが読みやすく、理解しやすいですか?
また、【0004】との繋がりは変更の前後でどちらがいいと思いますか?
元の【0006】の内容の方がよい、と言う人は技術文章を書くセンスはないです。
確かに、変更後の文章は変更前よりも長くなってますが、無駄に長くなったわけではありません。
意味・理解しやすさ・繋がりが格段に上がっているので、
外国語の翻訳者も翻訳しやすいはずです。

【0006】の1文目と2文目にも着目

【0006】は2つの文章で構成されてますね。
これらを繋ぐのが「これに対して」という「対比」を意味する文言です。
つまり、【0006】の1文目と2文目は対比の関係にあるわけです。
具体的には「故障が初期不良なのか、ユーザによるものなのか」です。

変更前の文章では、この対比関係すらうまく表現できてないわけです。
プロが書いたにもかかわらずです。
変更後の文章により、対比関係が明確になってます。
また、2つの文の表現も似ているので、翻訳しやすいはずです。

【0007】に登場する接続詞に着目

文の繋がりというと、真っ先に接続詞を思い浮かべると思います。
【0007】でようやく「しかし」という逆接の接続詞がでてきます。
この逆接の接続詞がこの位置で使われて正しい機能を発揮しているのでしょうか。

そもそも逆接とは、例えば、
「昨日から何も食べていない。しかし、お腹は減っていない。」などのように使います。
通常であれば、何も食べてないんだからお腹は減るだろう、と推測されるが、
その推測が逆に働く結果になるような場合に「逆接」が用いられるはずです。
プロなら知ってるはずですね。

【0006】と【0007】の繋がりに着目

では、【0006】と【0007】の繋がりを見てみましょう。
【0007】の内容は、その文頭「しかし」によって意図される【0006】の逆接になってますか?
それを考えるにはまず、【0007】の内容を見て、
その逆接が【0006】の内容に合致するかを判断します。

【0007】の1文目を要約すると、
「メーカは故障の原因が初期不良かユーザによるものかを判断するのは難しい」ということなので、
その逆接は、
「故障の原因が初期不良かユーザによるものかを判断するのが簡単な場合がある」などでしょうか。
したがって、逆接「しかし」を用いた例文としては、
【0006】:故障の原因が初期不良かユーザによるものかを判断するのが簡単な場合がある
【0007】:しかし、メーカは故障の原因が初期不良かユーザによるものかを判断するのは難しい
となってしかるべきでしょうか。

「まさに」しかし、【0006】と【0007】の内容は逆接ではないことが、この結果からわかりますね。

【0006】と【0007】をどう繋げればよかったのか

【0006】と【0007】の接続詞としてなぜ「しかし」をプロが使ったのか不明ですが、
「しかし」ではおかしいということがわかったと思います。
では、どうすればよいと思いますか?

私なら以下のようにします。
----------ここから----------
しかし一般に、修理依頼を受けたメーカ側で、故障の原因が初期不良によるものなのか、
ユーザが電子機器を落下させたことが原因であるかを判別することが難しい。
----------ここまで----------
どうですか?ごくごく自然だと思います。
そもそも、故障の原因がユーザにあるのか、初期不良であるのか、ということ自体、
誰であろうと判断は難しいはずです。
なぜなら、ユーザは初期不良である旨を主張する場合が多いからです。
こういったことは素人でもわかると思います。

したがって、逆接「しかし」で文を繋げるのではなく、
【0007】を一般論的にして【0006】に繋げるのが妥当なのです。
「しかし」という接続詞を用いると、
例えば英語翻訳時に、安直に「But」と翻訳される可能性が高くなります。
実際の内容は逆接ではないのに。。。。

繋がりの重要性と今回の結論

えらく長い説明になってしまいました。
ここまで読み終えた人は、文の繋がりの重要性がよくわかったと思いますし、
どのように文章をチェックしていけばよいのか把握できたと思います。
プロが書いた文章でも、表現の妥当性などを決して鵜呑みにせず、
そこから学び、修正する箇所が多々あるということを覚えておいてください。

やみくもに接続詞を用いて文章を繋がっているように見せかけるのは、
技術文章には不要なスキルです。
また、小説などのように、数段落前の内容に数段落後の内容を逆接で繋げるというスキルも、
技術文章には不要なのです。
理由は、文意が曖昧になるからで、曖昧な文章は誤解を招きやすいからです。

今後、技術文章をチェックする人は、ぜひ参考にしてください。

お疲れ様でした。そして、ありがとうございました!